見逃されたてきた根本的な原因
ここまで、少子化が進んでしまった原因を見てみきましたが、これだけを見るとどう対策しても無理ゲーなんじゃないかと思えてきました。
ただ少しでも子どものためにもいい未来が来てほしいという重いから、私たち夫婦の境遇を重ねて考えてみました。すると、日本の少子化がここまでひどくなってしまったもっと根本的な原因が見えてきました。
それは、社会構造が変わったのに男女の不平等(以降、ジェンダーギャップ)が残ったまま少子化対策を進めてきたということです。
というのも私たち夫婦は、ママが働き、パパが育休を取って家事・育児をするという形を取ったことで、育児と夫婦のキャリア継続を両立することができています。しかし、おそらく多くの夫婦は、ママが仕事を辞めるか育休を取ってもママに家事・育児が偏らざるを得ないという格差が生じてしまいます。
実際、図1−18のように、ジェンダーギャップのスコアが高い先進国は出生率が高いという正の相関があり、少子化が進む日本は146個カ国中116位とかなり低いです。
図1−18 ジェンダーギャップ指数(総合)と合計特殊出生率
出典:ESRI政策フォーラム(第61回) 基調講演
したがって、これからの日本は、どうやったら産まれる子どもが増えるかを考えるのではなく、どうやったらジェンダーギャップをなくしていけるかをまず考えるべきなのではないかと思うようになりました。
一方で、本当にジェンダーギャップを解消すれば少子化は防げるのか?と疑問は出てくると思います。
確かに、日本では女性の社会進出が進むと出生率は下がっているので、そんな疑問が出るのも無理もないです(図1−19)。
図1−19 女性就業率の推移
出典:内閣府 男女共同参画局 男女共同参画白書 令和4年版
しかし、先進国では女性の社会進出が進むと出生率が上がっている事実があります。
ただし、最初は日本と同じように、負の相関がありましたたが、ジェンダーギャップを解消しつつ仕事と育児が両立できる環境を整備してきたことで、正の相関に変わっていったという歴史があります(図1−20)。
図1−20 OECD加盟24カ国における女性労働力率と合計特殊出生数の変化
出典:平成18年版 男女共同参画白書
なぜ日本ではジェンダーギャップの解消がうまくいかないのか?
なぜ日本では女性の就業率だけが上がり続け、出生率が下がり続けているのでしょうか。
それは、戦後に刷り込まれた昔の価値観が染み付いているからだと考えています。女性だけでなく男性も固定観念に縛られ苦しんでいるようです。
実際に、内閣府の調査によると、「男は外で働き、妻は家庭を守るべき」と考えている人の割合は、令和に入っても男性の約40%、女性の約30%に達します(図1−21)。
それに対して、共働き夫婦は平成に入ってすぐの1990年には専業主婦の家庭を逆転し、現在ではさらにさが広がっています(図1−22)。
長らくの間、多くの方は結婚後の理想の姿と実際の状況に矛盾が生じていることを無理しながら働いている状態になっているのかもしれません。
図1−21 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に関する意識の変化
出典:内閣府 男女共同参画局 男女共同参画白書 令和4年版
図1−22 共働き世帯数と専業主婦世帯数の推移(妻が64歳以下の世帯)
出典:内閣府 男女共同参画局 男女共同参画白書 令和4年版
なぜ日本人の価値観が変わらないのか?
無理をして働くような状況をなくしていくためには、価値観をアップデートしていくしかありません。
しかし、私の両親はまさに典型的な専業主婦の家庭ですし、周りの友人の多くも同じ環境でした。自分の親がそうだと、今の子育て世代もその感覚を持ってしまうのも無理はないかもしれないです。
さらに、バブル崩壊後、給料が30年間上がらなかった日本経済の影響は大きすぎたようです。男は外で働くという価値観のもと、もっと働いて給料を上げないと、結婚できない、子どもを持てないというように負のスパイラルが続いてしまっていると考えられます。
周りの知人から聞く話では、マッチングアプリでは女性が男性を検索する際に年収でフィルタリングしている女性が多いとよく聞きますし、さらには登録時点で年収や経歴で振い落としをしているサービスもあるようです。前述した通り、非正規雇用が増えている中、年収フィルタのレベルは高いままという状況からしても、価値観はあまり変わっていない印象です。
そして、年金の世代間格差からもわかるように、将来の不安が今の若者に拍車をかけています。
実際に、既婚女性の理想の子どもの人数を産まない理由のトップは「子育てにお金がかかりすぎるから」というアンケート結果が出ており、男性へのプレッシャーが増し続けてしまっています。
それなのに、日本は先進国の中で政府の家族関連支出が少ないことも特徴的です。さらに、OECD主要国を見ると、家族関連支出と出生率は正の相関があります(図1−23)。
図1−23 家族関係支出と合計特殊出生率の関係
政府が家族関連支出を増やし、社会が子育てをサポートできるようになれば、安心して子どもを預けて女性が働けるようになるし、男性も仕事のプレッシャーから解放され、価値観は少しずつ変わっていくかもしれません。
しかし、今までの歴史をみるとそう簡単に変えることは難しそうなので、政府に期待して待っている時間は残されていません。
パパとママの限界がもうすぐ目の前に
ジェンダーギャップや昔の価値観が残ったまま少子化対策を進めてきた結果、パパとママに限界が来ています。つまり、キャパオーバーになっています。
ママは、育児・家事をしながらもっと働きに出ろと言われるし、パパは子どもができたからしっかり働きつつもっと家事・育児もしないと(イクメンになれ)と言われている状況なのです。
他の先進国同様に社会構造や家族の在り方は変わったのに、家族内の役割は変わっていないことが問題を深刻にしているのではないでしょうか。
実際、日本の労働時間はトップ水準が続いています。本当は家事・育児をやりたくてもできないのではないでしょうか。「日本の男性は全然家事・育児をしない」、「欧米のパパのように家事・育児をやろう」と言うだけで簡単にできるような状況ではないのです。
男性の新入社員の育休希望は年々上がっており約80%の男性が希望していることからも、家事・育児をしたくないわけではないことが伺えます(図1−24)。
しかし、実際の育休取得率が約10%というのは、いざ社会に出て働き始めると昔の価値観に上塗りされてしまっているのかもしれません。
図1−24 男性新入社員の育休の取得意向と育休取得率
このように、ひと昔の価値観を持ったまま社会の構造だけが変わったためにパパやママが無理やり子育てや仕事を両立しようとしている状況になってしまっているのではないのかと思います。
実際、周りの知人も共働きが多いですが、そのほとんどはママが育休を取りワンオペ育児をする形ですが、決してパパが家事・育児に非協力的なわけではありません。
今の環境のままでは、パパもママもキャパの限界がきてしまいます。その結果、産後クライシスによる離婚、産後うつ、自殺などが起こっているのだと思うようになりました。
そんな状況になっているにも関わらず、上の世代の方や政治家の方々は、少子化を防ぐには昔のようにもっと子どもの人数を産めば良いと思っているようですが、今のパパ・ママは昔と比べて子育てを頑張っていないかというとそうではないのです。
実は、合計特殊出生率は減っている一方で、既婚女性の出生率を表す合計結婚出生率は1970年代以降だいたい2.0前後を維持しており、ほぼ変化していないのです(図1−25)。結婚した夫婦はおよそ2人の子どもを産んでいることになります。
図1−25 合計結婚出生率と合計特殊出生率の推移
出典:国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査」
前述のように、社会構造が変わり、結婚する意味も子どもを産む意味も変わっています。むしろ、国が主導して伝統的標準家族(子どもは2人まで)が社会構造になっているため、この構造が変わらない限り、既婚女性が子どもを産む機会が劇的に増えることはないのは明らかです。(このような社会にしたのはあなたたちですよね?と言いたくなります。)
したがって、いまだに政府は既婚女性に期待して「もう1人産んだら○万円」といったことをしていますが、既婚女性にもっと子どもを産むための政策は的外れだということがわかります。それよりも1組のカップルが結婚すると2人の子どもが増えるということになるので、結婚を促進した方が少子化対策には効果的かもしれません。
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