第1章:川崎からの「脱出」
妊娠がわかった時、私は川崎にある夫の会社の社宅に住んでいた。 築30年、エレベーターなしの団地。 「これ、うちの子が使ってたやつだけど、よかったら」 夫の会社の先輩から頂いたのは、色が褪せた国産のA型ベビーカーだった。 「ありがとうございます!」 その時は素直に嬉しかった。社宅の狭い玄関には、その古ぼけたベビーカーがお似合いだったからだ。
しかし、産休に入る3ヶ月前、転機が訪れた。 「東京の方が子育て支援が手厚いし、もっと広いところに住もう」 私たちは思い切って、憧れの街・自由が丘へ引っ越した。 おしゃれなカフェ、石畳の遊歩道、行き交う洗練された人々。 「ここなら、素敵なママライフが送れる」 そう信じていた。あの「お下がり」を押して街に出るまでは。
第2章:自由が丘の「洗礼」
出産後、初めての散歩。 意気揚々とマリクレール通りに出た私は、すぐに顔から火が出る思いをした。
すれ違うママたちのベビーカーが、あまりにも「違う」。 右を見ればサイベックスのローズゴールド。左を見ればバガブーやストッケ。 みんな、最新の輸入車のようなベビーカーを、石畳の上で優雅に滑らせている。
対して、私の手元にあるのは、先輩のお下がり。 「キー、キー……」 プラスチックのタイヤが乾いた悲鳴を上げ、幌(キャノピー)は日焼けして薄汚れたネイビーだ。 ショーウィンドウに映る自分を見る。 ファッションは雑誌編集者らしく決めているのに、ベビーカーだけが**「昭和の団地」**からタイムスリップしてきた異物のように見えた。
(恥ずかしい……) ここは川崎の社宅じゃない。自由が丘だ。 この街でこのベビーカーを押すことは、ドレスコード違反もいいところだ。 私は逃げるように散歩を切り上げた。
第3章:編集者の「指名買い」
「買い替える。今すぐに」 帰宅後、夫に宣言した。 「え、もらったやつ使えるじゃん」という夫を無視し、私はPCを開いた。
私が選ぶべきは、単なる「高級ベビーカー」ではない。 周りのママ友の多くはサイベックスを使っている。 確かに素敵だが、編集者の私がみんなと同じ「制服」を着るのはプライドが許さない。 「人とは違う、でも圧倒的にセンスが良いもの」 そして、自由が丘の狭い路地やカフェでもスマートに振る舞える機能性。
全ての条件を満たすのが、バガブーの最新作**「Dragonfly(ドラゴンフライ)」だった。 価格は約12万円。 お下がり(0円)を使っていた身には震える金額だ。 でも、これはベビーカー代じゃない。 私が「川崎の社宅妻」から「自由が丘のママ」に生まれ変わるための、「入会金」**なのだ。
第4章:狭い路地の「優越感」
納車されたドラゴンフライを押して、再び街へ。 世界が一変した。 「ヌルゥ……」 あの不快なキーキー音は消え、石畳の上を氷のように滑っていく。
自由が丘は、メイン通りを一歩入ると意外と道が狭い。 だが、ドラゴンフライは驚くほど小回りが利く。 そして何より、カフェに入った時だ。 「バシュッ、ストン」 特許取得の折りたたみ機構で、立ったまま一瞬でコンパクトになり、自立する。
隣の席で、巨大なベビーカーの置き場に困っているママを横目に、私はスマートに席に着く。 (見た目だけじゃない。この機能美こそが、都会の正解) お下がりを使っていた頃の惨めさは微塵もない。 私は今、この街に完全に「適応」している。
第5章:サイベックス包囲網の中での「勝利」
「はじめまして! 同じ月齢ですね」 公園で、新しくできた東京のママ友たちに声をかけられた。 予想通り、彼女たちの手元はサイベックスのメリオやミオスで埋め尽くされている。
「あ、そのベビーカー……バガブーの新作ですよね?」 一人のママが、私のドラゴンフライに気づいた。 「へえ、これどうやって畳むんですか?」 私が実演して見せると、全員が「すごーい!」「おしゃれ!」と感嘆の声を上げた。
そして、リーダー格のママが言った。 「やっぱり編集者さんは違うね〜。みんなサイベックスなのに、あえてバガブー選ぶとか、センスいい!」
その瞬間、私の脳内で快楽物質が溢れ出した。 (勝った……!) みんなと同じ流行り物ではなく、あえて「本物」を選んだ審美眼。 それが認められた瞬間、私の承認欲求は完全に満たされた。 12万円の投資は、この一言で回収できたと言っても過言ではない。
第6章:私はこの街の住人になった
夕暮れのマリクレール通り。 私はドラゴンフライを押して、堂々と歩いている。 先輩にもらった「お下がり」は、感謝しつつもリサイクルショップへ手放した。 あれは私の「過去」だ。
ハンドルから伝わる剛性感と、ショーウィンドウに映る洗練されたシルエット。 これでもう、誰に見られても恥ずかしくない。 私は胸を張って言える。 私はもう、社宅の住人じゃない。 この洗練された自由が丘の風景の一部なのだと。
【本日の生存戦略物資】
Bugaboo(バガブー) Dragonfly(ドラゴンフライ)
① 総評(Verdict): 「その他大勢」に埋もれたくない、自意識高い系ママの切り札。 サイベックス一強の都心部において、バガブーを選ぶことは「私は流行に流されず、本物を知っている」という無言のマウンティングになる。特にドラゴンフライは、バガブーの弱点だった「畳みにくさ」を完全に克服しており、自由が丘のような「狭いけどおしゃれ」な街には最強の相棒となる。
② 機能的勝因(Hidden Spec): 「シティ・ドライビング性能」。 バガブーの大型モデル(Fox)譲りのサスペンションを持ちながら、横幅はスリムで改札も余裕。そして何より、片手で瞬時に畳める「スタンドアップ・フォールド」。狭いカフェや玄関での所作が、劇的にスマートになる。
③ 所有の美学(Pride): 「脱・量産型」。 「さすが編集者」と言わせるだけの説得力が、このプロダクトにはある。機能、デザイン、価格、すべてにおいて「妥協していない」ことが伝わるため、持つだけで所有者の「格(センス)」を上げてくれるアクセサリーとしても機能する。


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