【第1話】勝どきの悲劇。「安いのでいいから買い替えたら?」と夫に言われた妻の、華麗なる生存戦略。

【STORY】ベビーカー小説

第1章:エアバギー ココプレミアの全能感

勝どきのビル風は強い。だが、その風を切り裂いて進む私の相棒、「エアバギー ココプレミア EX フロムバース」の前では、どんな悪路もレッドカーペットに変わる。

「やっぱり、エアバギーの走行性は別格ね」 3歳の長男の時から愛用しているこの機体。オフロードタイヤのような重厚な足回りは、勝どき・晴海エリアの広い歩道や公園の砂利道で無敵の強さを誇る。「フロムバース」の名が示す通り、新生児からずっと子供を守ってくれた頑丈なシェルター。 ママ友とのランチで並べた時、その圧倒的な存在感は、私の「良いものを選んだ母親」としての自尊心を静かに満たしてくれた。重さは安定感。デカさは安全の証。そう信じて疑わなかった。

第2章:タワーマンションの憂鬱

しかし、現実はスペック表の数字とは違う場所で私を追い詰める。 それは日曜日の午後、ららぽーと豊洲からの帰り道だった。

タワーマンションの低層階用エレベーターホールには、すでに3基のベビーカーが列をなしている。Cybex、Stokke、そして私のAirBuggy。 「あ、すみません…乗れませんね」 扉が開くたび、満員の箱を見ては見送る。3歳児がぐずり、0歳児が泣き出す。巨大な戦艦のようなエアバギーは、この「縦の交通渋滞」においては無力な鉄の塊だった。

ようやく自宅の玄関ドアを開けた時、私のHPはゼロに近かった。そして、トドメの一撃は身内から放たれた。

第3章:夫の提案、あるいは敗北

「ただいまー。…っと」 残業から帰宅した夫が、玄関で立ち止まった。 我が家の玄関は、タワマン特有の「内廊下設計」の犠牲となり、決して広くはない。そこに横幅53.5cm、全長96cmのエアバギーが鎮座している。自立スタンドを使っても、シューズインクローゼット(SIC)の扉を半分塞いでいた。

夫は革靴を脱ぐスペースを探しながら、困ったように眉を下げた。 「ねえ彩香。このベビーカー、やっぱりここだと大きくない? 毎日出し入れ大変でしょ」 「…でも、走行性はこれが一番だし、子供もよく寝るのよ」 私が反論すると、夫は気を使いながらも、核心を突く言葉を放った。

「それはわかるけどさ。ほら、西松屋とかで売ってる、安いのでいいから買い替えたら? もっと小さいやつに。その方が楽だよ」

安いのでいいから。 その言葉が、私のプライドを逆撫でした。 (何も知らないくせに。ペラペラの安いバギーにしたら、この石畳の振動で0歳の子が起きちゃうのよ…!) でも、言い返せなかった。だって、本当に玄関が狭くて邪魔だったから。

第4章:オランダからの回答

その夜、私は枕を濡らしながらスマホを検索した。「ベビーカー コンパクト 走行性 新生児から」。 夫の言う通りに「安くて小さいだけのバギー」に乗り換えるのは、敗北だ。私のプライドが許さない。 見栄も、走行性も、そして子供の快適性も捨てず、なおかつ夫を黙らせる「物理的な小ささ」が欲しい。

そんな矛盾した願いに応える機体が、オランダから届いていた。 Bugabooの最新兵器、「Butterfly 2」だ。

1秒で展開。IATA基準の機内持ち込みサイズ。なのに、ほぼフルフラットにリクライニング可能で1ヶ月から使える

これだ。私の目が釘付けになる。 従来のバタフライは6ヶ月からだったが、最新の「2」はリクライニング角度が深くなり、生後1ヶ月から対応している。これなら0歳児を乗せても安心だ。 しかも、4輪すべてにサスペンション搭載。オランダの石畳で鍛えられた走行性なら、エアバギーからの乗り換えでも満足できるはず。

私は震える指で「購入する」ボタンを押した。これは「安いものへの妥協」ではない。より高度な「戦略的転進」なのだ。

第5章:1秒の魔法

数日後、新しい相棒が届いた。 夫の前で、私はデモンストレーションを行った。 「見てて」 手元のボタンを握り、ふわっと持ち上げる。カシャッ。 わずか1秒。私の目の前にあったベビーカーは、ハンドバッグを一回り大きくした程度の「箱」に変形した。

そのまま、私はそれをシューズインクローゼットの、今まで傘立てが置いてあった隙間にスッと差し込んだ。 「おお…すごいなこれ。めちゃくちゃ小さいじゃん」 夫が感嘆の声を上げる。玄関は広いままだ。 「でしょ? しかもこれ、バガブーだから走行性もいいのよ。安物じゃないの」

翌日のエレベーター。満員だったが、私はサッと畳んで肩にかけ、隙間に体を滑り込ませた。0歳児は抱っこ紐の中ですやすや眠っている。 「すみません」と謝る必要もない。私は空間を支配していた。

第6章:新たな生存戦略

エアバギー ココプレミアは素晴らしい。それは間違いない。だが、都心のタワマンという戦場において、真の強さとは「大きさ(安定感)」ではなく「環境への適応力」だったのだ。

彼女は、ただベビーカーを買い替えただけではない。 タワマンという戦場で、「母親としての尊厳」と「自由な移動」を勝ち取ったのだ。

エレベーターの扉が閉まる瞬間、彼女がふと見せた晴れやかな表情。 それは、かつてのエレベーターでの惨めな自分に対する、最高の**「ざまあみろ(勝利宣言)」**だった。

今はもう、玄関で夫に気を使わせることもない。 見栄も機能も捨てずに、私は「余白」を手に入れた。これが、私の生存戦略。


【本日の生存戦略物資】

Bugaboo Butterfly 2 (バガブー バタフライ 2)

③ 所有の美学 (Pride): 「安いのでいいから」と言われて、あえて高級機のバガブーを選ぶ。その反骨精神こそが生存戦略だ。ハンドル中央の白いロゴを見るたび、「私は妥協しなかった」という優越感に浸れるだろう。

① 総評 (Verdict): 「2台目は安いB型でいいや」という妥協を許さない、都心パパママのための最終兵器。最大の進化点は**「生後1ヶ月からの使用」**が可能になったこと。これにより、A型を買わずに最初からこれ1台でいくという「AB型殺し」の選択肢も生まれた。

② 機能的勝因 (Hidden Spec): 特筆すべきは、展開のスムーズさと、畳んだ時の美しさ。IATA基準で機内持ち込み可能なサイズ(※航空会社による)でありながら、シート高はハイシートを維持。アンダーシートバスケットは8kgまで飲み込む。玄関の「デッドスペース」に収まる直方体形状は、坪単価の高い都心マンションにおける節税対策と言っても過言ではない。


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