【第5話】豊洲のロジスティクス。「2台目」は浮気ではなく、パパの腰を守る「機材投資」だ。

【STORY】ベビーカー小説

第1章:俺は「運搬業者」ではない

週末の豊洲ららぽーと。 俺の役割は、家族の笑顔を守ること。そしてもう一つ、「重機(ベビーカー)」のオペレーションだ。

我が家の愛車は、妻が妊娠中に「絶対にこれがいい!色が可愛い!」と選んだ海外製のA型ベビーカー。 確かに走行性はいい。見た目も映える。 だが、デカい。そして重い。

「パパ、車に乗せといてー」 妻は娘を抱っこして、スタバへ向かう。 残された俺は、駐車場で10kgの鉄塊と格闘する。 折りたたんでも自立せず、車のトランクの半分を占領するその巨体。 キャンプ用品も買ったばかりのコストコの荷物も、テトリスのように隙間を縫って詰め込まなければならない。 腰に走る鈍痛。額を流れる汗。 (なんで俺の休日は、こんなに「物流」に追われているんだ……?)

第2章:豊洲の「エレベーター地獄」

ららぽーと店内。ここからが本当の地獄だ。 週末の豊洲は、ファミリー層でごった返している。 特に深刻なのが、上下移動だ。

「エレベーター、また満員か……」 俺たちは、エレベーターホールの長蛇の列に並んでいた。 ベビーカーを押している以上、エスカレーターは使えない。 何台見送っただろうか。 前にも後ろにも、巨大なベビーカーを押したパパたちが、死んだ魚のような目をして並んでいる。 子供はぐずり始め、妻の機嫌も悪くなる。 俺のせいじゃない。でも、俺がなんとかしなきゃいけない空気。 この「待つだけの時間」が、俺の休日を確実に蝕んでいく。

第3章:隣のパパの「マジック」

その時だった。 列の横を、一人のパパと小さな子供が通り過ぎていった。 彼はエレベーターの列には目もくれず、エスカレーターの方へ向かう。

「え、ベビーカーどうするんだ?」 俺が目で追うと、信じられない光景が飛び込んできた。 彼はベビーカーのハンドルにあるボタンを押し、**「バシュッ!」**と一瞬で折りたたんだのだ。 それは、俺のビジネスバッグより小さく、四角いブロックのような形状に変形した。 彼はそれをひょいと肩にかけ、もう一方の手で子供と手を繋ぎ、涼しい顔でエスカレーターに乗っていった。

「なんだあれは……!?」 俺は思わず凝視した。目が点になった。 あれはベビーカーではない。**「ガジェット」**だ。 男心をくすぐる変形機構。そして圧倒的な携帯性。 俺が汗だくで並んでいるこの「行列」を、彼はテクノロジーで無効化したのだ。

第4章:妻へのプレゼン(予算獲得闘争)

その夜、俺は執念でその機体を突き止めた。 「Cybex リベル」。 B型ベビーカーの革命児。

俺は妻に切り出した。 「2台目のベビーカーを買いたい」 妻の反応は冷ややかだ。 「えー、今のがあるじゃん。もったいない。置く場所もないし」

ここからが営業マンの腕の見せ所だ。 俺はスマホでスペック表を見せる。 「聞いてくれ。これは無駄遣いじゃない。**『機材投資』**だ」 「今のベビーカーは確かに乗り心地がいい。だから近所の散歩用(メイン機)として残す」 「だが、車移動や電車移動の時、このリベル(サブ機)があれば、トランクの容量は3倍空く。俺の腰の負担は8割減る」 「何より、今日みたいなエレベーター待ちがなくなる。週末の俺たちの時間が、もっと自由になるんだ

第5章:玄関の隙間に収まる「自由」

「それに、これを見ろ。折りたたみサイズは幅32cm。玄関のシューズクロークの隙間に入る」 「さらに、リセールバリュー(再販価格)も高い。メルカリで〇〇円で売れてる」

畳み掛けるようなロジックに、妻は根負けした。 「……わかったわよ。パパがそこまで言うなら」 妻は渋々だったが、俺には確信があった。これは家族全員を救うと。

数日後、リベルが届いた。 箱から出した瞬間、その小ささに驚愕した。 「ちっさ! 自転車のカゴに入るじゃん」 妻も思わず声を上げた。

第6章:手に入れた「翼」

翌週の豊洲。 俺の肩には、ショルダーストラップで吊るしたリベルがある。 軽い。 6kg弱。片手で余裕だ。

娘が「歩きたい!」とぐずっても、すぐに畳んで肩にかければいい。 エレベーター待ちの行列を横目に、俺たちはエスカレーターでサクサク移動する。 あの「待ち時間」のストレスが消滅しただけで、こんなにも景色が輝いて見えるのか。 トランクにはお土産を載せるスペースが無限にある。

妻が笑った。 「なんか今日、パパ動きがいいね」 当たり前だ。足枷が外れたのだから。 この黒くて小さな「機材」は、俺に週末の自由と、パパとしての余裕を与えてくれた。 2万5千円。 俺の腰と精神衛生を守るコストとしては、あまりにも安すぎる投資だった。


【本日の生存戦略物資】

Cybex(サイベックス) Libelle(リベル)

① 総評(Verdict): パパのための「戦術的撤退」ツール。あるいは最強のサブウェポン。A型という「重装備」に疲弊した父親たちが、最終的にたどり着く合理的解。

② 機能的勝因(Function): 「ウルトラコンパクト」。この変形機構は、もはや男のロマンだ。自転車のカゴに入るサイズ感は、都心の狭い移動環境(タクシー、満員電車、狭い玄関)において圧倒的な正義となる。

③ 所有の美学(Pride): これは「妥協して買ったバギー」ではない。「適材適所を知る賢い大人のギア」だ。リベルを肩にかけ、子供と手を繋いで歩くパパの姿は、巨大なベビーカーを押す姿よりも、はるかにスマートで都会的である。


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